で、スナップってなに?(はじまりに代えて)

私はスナップが好きです。回りまわって言うと私が今Xシリーズ専門の写真の実験室を行っているのもひとえにスナップが好きだからです。そしてXシリーズのそもそものコンセプトもスナップと親和性が高いです。実は写真史の正道も実はスナップだと思っています。ですが他の国はわかりかねますが、日本ではこの言葉はダブルミーニングそのものなのですがもう一つの意味についての理解はほぼないのではないでしょうか?その辺りを少々解きほぐしながら進めていきましょう。

スナップという言葉を辞書で引くと恐ろしい答えが出てきます。

【スナップ】下準備その他特にせず、日常のできごとあるいは出会った光景を一瞬の下に撮影する写真。

または他の辞書にはパシャリ、ピシャリとも出ています。つまりはシャッターをパシャリと押したら、それはスナップです。つまり写真というのは何から何までスナップということになります。大げさに言うと写真=スナップとも言えます。子供のスナップ、旅のスナップ、結婚式のスナップ、何でもスナップです。このスナップを「写真」に置き換えても成立するのがスナップ=写真と言われる所以ですね。

また日本のスナップの第一人者・森山大道さんの記事などを拝読すると「とにかく撮れ」的な、「自由に撮れ」的な教示が散見されます。正直に言いますとなにも写真がわからなかった頃は「何を言っているんだこの人は」と思っていました。とにかく撮っても~自由に撮ってもさっぱりわからない~このろくでもない写真に何の価値があるのか~いやはやなんともわかりませんでした。「三沢の犬」は素晴らしく感動しましたが、写真誌の巻頭を飾る森山さんの写真が正直何がいいのかわからないのに、森山さんのご教示が染みるわけもなく。

私は前職の経験から物事にはすべからく「型」というものがあり、それを「真似」していくことでブレークスルーが訪れると思っています。ブレークスルー後はそれをいかに捨てていくかが物の上達なのだと。中村勘三郎の名言【型を身に付けねば型破りにはなれない。型を身につけてから、破るから“型破り”っていうんだよ!型がなかったら「形無し」!】ってところでしょうか。「要するに写真にも型があるのではないか、いや、なきゃおかしい!形無しのはずがない!」。ブレークスルーを目指す私はこう独り言ちていました。そこからセミナーでご一緒した写真家の話しや現場での撮影をつぶさに見る立場をふんだんに利用して、なるほどポートレートの型はこれなのか、花撮りの型はこれか~、風景はこれなんだなと理解を深めていきました。

ですが、そうなんです。スナップだけはどうしてもわかりませんでした。誰もが「型」を前提としていないとすら見えていました。勘三郎のいう所の「形無し」としか理解できなかったんです。それぞれのスナップには型があるのかもしれませんが、その型に共通項が見出せませんでした。

しかし色々と経験させて頂くと何やらうっすらわかることも出てきます。

その一 写真を生業としている方々はスナップとは写真そのものではなく、一つのジャンルだと思っているようだ。

その二 ポートレートや花の様に何か決まった被写体を撮るジャンルとは明らかに思考が違うようだ。

どうにかしてスナップの秘密を探ろうとしていた私はまずこの2点に気づきました。要するに家の車をビートルに買い換えたら街中のビートルが目に入るとでも言いましょうか。そこまでいけば後は出会い頭でもブレークスルーの最初のアンカーにぶつかるものです。

そうです、私はある写真家の、ある写真と、多くの方々同様にぶつかってしまいました。
アンリ・カルティエ=ブレッソンの「サン=ラザール駅裏」という写真の歴史でも屈指の一枚にです。
有名な写真と言うのは知っていました。ですがここでいうぶつかるというのは「なぜこれが屈指の一枚」なのかがわかる、ということです。詳しい説明は後段に任せますがこの一枚のすごさがわかった時、ほぼスナップというジャンルも理解できました。スナップはその後「ニューカラー」や「ポストモダン」と発展するのですがやはり写真というのはブレッソン前とブレッソン後に分かれるといってもいいでしょう。

スナップのセミナーではあまり言わないのですが、私はブレッソン的なスナップというのはウルトラQのオープニングと同じイメージを持っています。(年がばれますね~)
これはカラー版のウルトラQのオープニングですが15秒直前で回転が遅くなり15秒時点で止まるのですが、要は回転が遅くならず15秒でも止まらなければ「ウルトラQ」が現前するのは15秒の一点しかないわけです。ここでシャッターを切ることをブレッソンは「決定的瞬間」だとしたわけです。冒頭の意味とはかなり違うと思いませんか?辞書で引くスナップの意味とは「下準備その他特にせず、日常のできごとあるいは出会った光景を一瞬の下に撮影する写真」です。似て非なるとはこのことですね。「スナップとは下準備をして、計画的に待機して一瞬の下に撮影する写真」というのが実は正解だったりします。

 

写真というのは実はデジタルになってからシャッター数は圧倒的に増えています。なんでも女子高生の一年間に撮るショット数は4000枚だそうです。フィルムであれば当然こうはいきませんね。4000枚なんてプロかハイアマチュアの世界です。ですが女子高生に限らずフィルムよりも圧倒的に増えたショット数の9割以上は「記録」として撮影されています。いえいえ、それでいいんです。写真の醍醐味には確かに「記録」という面が大です。そこにいた、誰といた、楽しかった、友達との、家族との、恋人との、旅の、町の、家の記録を残しておく事が出来るのは20世紀からカメラ・写真が生活者に与えた特権です。今どきのカメラで言えば「記録」であれば超スーパーオート機能で撮影すれば失敗しないように出来ています。誰でも半押しをして、さらに押し切ればカメラが適正と判断した写真が撮れるようになっています。ですが写真を一生の趣味になさりたいのであれば残りの1割に目を向けなければなりません。それはいうなればカメラの性能に撮らされている写真ではなく、自分がイメージする写真が撮れるようになるということです。私はその際重要なファクターが「スナップ」だと思っています。写真が上手くなりたい方にとって絶対に越えてほしい、絶対にご自分のフィールドに引き込んでほしいのが「スナップ」なんです。

なぜなら、ポートレートや花の様に何か決まった被写体を撮るジャンルとは明らかに違う思考だからです。花鳥風月などの被写体を追いかけるのも良しですがスナップの思考がわかると写真そのものが変わります。必ずブレークスルーが起こるのではないでしょうか。XPLでの私の目的は皆さんにハイアマチュアになってもらうことではありません。皆さんが撮りたい写真が撮れるようになって欲しいんです。

ブレークスルーの起爆剤、「スナップ」について今後様々な角度から掘り下げていきます。皆様のお役に立てれば幸いです。

2月のX Photo Laboratory

Team Rhodes : スナップの極意

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