リバー〜奥田英朗

656ページに渡る大作も火がついてしまえばあっという間の読了。とにかく途中だれることもなくこのページを読ませる筆力は素直に感嘆する。だがどうしても残るこの物足りなさ。読了後もそんな思いに満たされた。平塚くんと篠田先生の一騎討ちから一気に話は落下するかごとく落ちていきます。ここまでの道のりが長かっただけに構成としてはありなのでしょうがカタルシスとは程遠く。とてもよい作品だけになんだろうなぁと試行錯誤。そして至る。

「胆力」が足りないのだ

池田には滝本。平塚には篠田、苅谷には斉藤というカウンターがいて、新たな発見や失踪、追跡などドラマがそれぞれに進行していくだが、その個々の掘り下げの胆力が足りないのではないか。掘り下げてはいる。ページの制約があったのか、連載の制約があったのか、ここまで書けるのなら気づかないわけは無いんだろう。1000ページでも1200ページで上下巻になっていいから、あそこからさらに掘って欲しかった。
群集劇ではあるが主人公的な位置にいる斎藤の家族、滝本の妻、明菜の母、平塚の父母、弁護士、中南米のグループそれぞれ、もっともっと生臭いのではなかろうか。
そして生臭さグランプリの第一位に輝く松岡。彼が容疑者3人以外では一番異常者であり、遥かルビコン川を渡っており、そして理不尽な恨みに忠実であった。欲が制御できずリバーを超えた容疑者と滝本と松岡の超え方は結局同意ではなかろうか。そこに寓意があるのかと。容疑者3人から見える異常な世界を描かないのならば、この2人からみた異常な世界を周りの人を使ってでも掘り続ける胆力があればまた違ったのかもかな。正義と悪とを単純に2分化すれば、とりあえずこの滝本と松岡はまだ正義域にいる。しかし実は彼らこそが一番生臭い。その生臭さんをもっと現出するにはページが足りないのだろう。だからこそページがあったときの胆力を期待してしまう。

リバー 奥田英朗

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